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カラスは麒麟と同じように胸を張り、橋を渡る雪乃に向かって、先の尖った嘴を大きく開けた。
「おれ、カラスに生まれてよかったよ。人間ときたら、毎日あんなふうにぎゅうぎゅう詰めにされて、わざわざ働きに出かけるんだもんな」
雪乃のすぐ前を歩いていた女性が、カラスの鳴き声に怯えた様子で身を縮め、慌てて橋を渡りきった。雪乃はカラスに向き合い、ささやき声で返す。
「クロ。ここまでついて来たの」
「だめだったかな。でも、都会にカラスがいたって、別におかしくはないだろう」
「会社までついて来たことなんてなかったじゃない」
カラスと会話しているなんておかしな人だと思われるにきまっているので、雪乃は通り過ぎていく人たちに怪しまれないよう、できるだけ小さい声で尋ねた。
「風の便りってやつかな。何かあるって気がしたんだ。こういうときは、主人について行くのが良いと思って」
カラスのクロの言葉に、雪乃はいささか不安になった。
「何かよくないことが起こるの?」
「よくないこととは限らないよ。いいことかも」
クロは一見ただのカラスだが、魔女と正式に契約を結んでいる、使い魔なのだ。
契約によって主人から魔力を得ている。主人である魔女と会話できるのも魔力のおかげだ。
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