ほくろ

1/6
前へ
/46ページ
次へ

ほくろ

◇ 机に頬杖をついて、窓の外に目を向ける。 初夏の木々が放つ青くさい香りに鼻をくすぐられ、これから暑くなるな、と思う。途端にひどく憂鬱な気分になり、授業中にも関わらず、思わず深いため息を洩らしてしまった。 夏、半袖の季節。一年中長袖で通す俺――深見叶(フカミカナエ)にとって、最も忌まわしい季節だ。 日焼けしたくない女子ならまだしも、真夏の盛りにも長袖シャツのまま過ごす男子なんて、学年中見渡したって俺くらいのもの。どうしたって悪目立ちしてしまうのだ。 たとえ炎天下で体育があろうと、何十年に一度の酷暑が訪れようと、俺が頑なに半袖を避けるのは、なるべく素肌を――ほくろの多すぎるこの肌を見られたくないからだ。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加