ほくろ

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そうして俺が唯一身につけた処世術は、『存在を消す』ことだった。 いない人間をからかうやつはいない。だから、いなくなるのだ。 息を殺し、身を潜め、誰とも話さず、なるべく誰の視界にも入らないように、誰の気にも障らないように生きる。クラスの空気になるのだ。 その作戦は今のところ成功をおさめており、高校に入学してから一年と三ヶ月、誰からもほくろについてからかわれずに済んでいる。誰とも会話していないのだから当然とも言えるが。 そもそも、真夏にも長袖を着て、シャツのボタンも詰襟のホックもきっちり上まで留めて(胸元にも目立つほくろがあるから)、肩につく長さまで髪を伸ばし(首筋にもほくろがある)、体育の授業の前後にはカーテンのかげに隠れるように着替える(色白でほくろが多いことだけじゃなく、いくら食べても太らず鍛えても筋肉がつかないひょろひょろの身体もコンプレックスなのだ)、そんな変なやつと関わろうと思うやつはいないだろう。 「はあ……」 知らず、もう一度ため息が洩れた。
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