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例に漏れず、本当なら帰宅部がよかった俺も、実は天文部に所属している。
もちろん、一度も部活に行ったことはない。部員どころか顧問が誰なのかも知らないし、部室がどこにあるのかさえわからない。入学時に入部希望届を書いただけなのだから当然だ。
おそらく数十人の幽霊部員が所属しているであろう中で、真山は唯一まともに活動している部員らしい。
ぼさぼさ頭にひどい猫背で、宇宙関連とおぼしきやけに分厚い本をいつも肌身離さず持ち歩き、放課後になると一人にやつきながらいそいそと部活に出掛けていくその姿を見れば、誰もが引くのは仕方がないだろう。
しかも、たった一人なのにかなり精力的に活動しているらしく、去年の夏休み明けには全校集会で表彰されていた。
よく分からないが、市だか県だかの代表としてなんちゃら大会に出場し、研究発表か何かをして、なんちゃら賞をとったとか。
よくも一人でそんなに頑張れるよなあ、変態なんかな、と思っていたら、その張本人から、授業が終わると同時に名前を呼ばれた。
「ねえ、深見」
先生以外から名前を呼ばれたのは高校では地味に初めてだな、と思いながら、俺は「なんだよ」と振り向いた。
謝るつもりなんだろう、と思った。
いきなり触ったりして驚かせてごめん、しかもおれのせいで先生に怒られちゃってごめん、と。
しかし、予想に反して真山は、反省も申し訳なさも微塵も感じていない顔で、にたりと笑って俺に言った。
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