アセビの魔女

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いつものように夕食を済ませ、大浴場に向かう。その後は各々好きなように過ごすのが三人の日常だ。 大浴場から部屋に戻ったニーエは、明かりをつける呪文を唱えた。窓に備え付けられた三つのランプが部屋を暖かい色で照らし出す。 アンナはまだ大浴場、エルザは湯冷ましの散歩に行っている。ニーエは借りてきた本を読むために、一足早く部屋に戻ってきたのだ。 出窓に置いたままの本を取ろうと部屋を横切るが、ふとその足が止まる。 「……あれ?窓開いてたっけ?」 思わず独り言が漏れる。視線の先、出窓のカーテンが僅かに揺れていた。 記憶を辿るが、ニーエには覚えがない。 訝しみながらカーテンをめくると、開かれた窓の隙間から夜の冷たい風が入りこんでいた。 窓を閉めようと手を伸ばす。しかしその瞬間、ニーエの手を拒絶するように突風が隙間から飛び込んできた。 「わぁっ!」 カーテンが膨れ上がり、ニーエに迫る。視界いっぱいに広がる生地に反射的に目を閉じ、手で押しのけようともがくけれど、風も負けじと押し返してくる。 吹き荒ぶ風の音に混じって、本が床に落ちる音が響いた。 どれくらいの時間だったのだろう。長く感じたが、一瞬の出来事だったのかもしれない。 やがて荒れ狂う風は、来た時と同様に突然止んだ。 「なに…?」 ニーエは恐る恐る目を開けたが、そこにはカーテンが静かに揺れているだけだった。 窓へ手を伸ばすと、今度はなんの抵抗もなくすんなりと窓が閉まる。 「ただの風…だよね?」 部屋を見回しても、特に変わったことはない。ただ窓側に置いていた本だけが、風に巻き込まれて床に落ちたようだった。 ニーエは本に手を伸ばして一冊一冊確認していく。表紙だけでなくページも軽く捲ってみたが、特に問題はなさそうだ。 「ああ、びっくりした」 ニーエはほっと安堵の息をつくと、拾い上げた三冊の本を抱きしめた。
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