アセビの魔女

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魔法学園の授業は多種多様だ。 子供達は年齢に合わせた知識と経験を蓄えて個性を伸ばし、様々な魔法使いに育っていく。 そして今日ニーエが受ける選択授業も、個性を伸ばすひとつ。のはずなのだが…… 「また自習かよ」 「まあいいじゃん、こっちも真面目に受ける気なんてないし」 黒板に書かれた「自習」の文字に、生徒達は呆れ混じりの声をあげた。 ニーエが選んだ『魔法史』の授業は、普段習う歴史よりも一歩踏み込み、魔法や歴史上の人物に関して造詣を深めるものである。 しかしこの授業を担当する教師は、授業より歴史研究の方が大切らしい。新たな歴史の発見がある度にこうして授業は自習となり、生徒は放っておかれてしまうのだ。 生徒も最初こそは戸惑ったものの、今は好き勝手に過ごしている。 この時間、アンナは実験を伴う薬草学の授業に、エルザは魔法道具を使った野外活動に向かっている。 二人が勉強をしている間、自分だけが遊んでいるわけにはいかない。 ニーエは自習をするべくノートと教科書を開いた。 とはいえ、教科書の緻密な文字を追っていれば疲れも溜まってくる。 ノートを書き進めていたニーエは、溜息をつくと、少しだけ休憩しようと鞄の中から一冊の本を取り出した。 昨夜借りた三冊目の本。深緑の表紙にはくすんだ金で『アセビの魔女へ』と箔押しされている。 ページを開くと、黄ばんだページの真中にこう書かれていた。 ―貴方は、自分に価値がないと思っていませんか?― どきり、と心臓が跳ね上がる。まるで自分の心を言い当てられたような気がして、ニーエは恐る恐るページを捲った。 ―けれど、私は知っています。貴方の価値を。 努力する貴方の真っ直ぐな瞳を。 心優しい貴方の純粋な心を。 私には分かります。貴方の努力は、やがて実を結ぶ。 アセビの花言葉は『純粋な心』 私は貴方を『アセビの魔女』と呼びましょう― 「アセビの魔女…」 口の中でその呼び名を繰り返す。 ニーエをアセビの魔女と呼ぶこの本は、どうやら読み手への励ましの言葉が綴られたものらしい。 不特定多数への言葉のはずなのに、自分に向けられたように感じて自然と笑顔になる。 ―努力は、やがて実を結ぶ― その言葉を信じて、ニーエは再び教科書とノートに向かったのだった。
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