1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
魔法学園の授業は多種多様だ。
子供達は年齢に合わせた知識と経験を蓄えて個性を伸ばし、様々な魔法使いに育っていく。
そして今日ニーエが受ける選択授業も、個性を伸ばすひとつ。のはずなのだが……
「また自習かよ」
「まあいいじゃん、こっちも真面目に受ける気なんてないし」
黒板に書かれた「自習」の文字に、生徒達は呆れ混じりの声をあげた。
ニーエが選んだ『魔法史』の授業は、普段習う歴史よりも一歩踏み込み、魔法や歴史上の人物に関して造詣を深めるものである。
しかしこの授業を担当する教師は、授業より歴史研究の方が大切らしい。新たな歴史の発見がある度にこうして授業は自習となり、生徒は放っておかれてしまうのだ。
生徒も最初こそは戸惑ったものの、今は好き勝手に過ごしている。
この時間、アンナは実験を伴う薬草学の授業に、エルザは魔法道具を使った野外活動に向かっている。
二人が勉強をしている間、自分だけが遊んでいるわけにはいかない。
ニーエは自習をするべくノートと教科書を開いた。
とはいえ、教科書の緻密な文字を追っていれば疲れも溜まってくる。
ノートを書き進めていたニーエは、溜息をつくと、少しだけ休憩しようと鞄の中から一冊の本を取り出した。
昨夜借りた三冊目の本。深緑の表紙にはくすんだ金で『アセビの魔女へ』と箔押しされている。
ページを開くと、黄ばんだページの真中にこう書かれていた。
―貴方は、自分に価値がないと思っていませんか?―
どきり、と心臓が跳ね上がる。まるで自分の心を言い当てられたような気がして、ニーエは恐る恐るページを捲った。
―けれど、私は知っています。貴方の価値を。
努力する貴方の真っ直ぐな瞳を。
心優しい貴方の純粋な心を。
私には分かります。貴方の努力は、やがて実を結ぶ。
アセビの花言葉は『純粋な心』
私は貴方を『アセビの魔女』と呼びましょう―
「アセビの魔女…」
口の中でその呼び名を繰り返す。
ニーエをアセビの魔女と呼ぶこの本は、どうやら読み手への励ましの言葉が綴られたものらしい。
不特定多数への言葉のはずなのに、自分に向けられたように感じて自然と笑顔になる。
―努力は、やがて実を結ぶ―
その言葉を信じて、ニーエは再び教科書とノートに向かったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!