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「どういたしまして。それよりも二人共、怪我はない?」
「私はだいじょーぶ!こっちは……」
「ああ、俺は大丈夫だ……ありがとう、助かった」
エルザの次に顔を出したのは、隣のクラスの男子生徒だ。
ニーエは三人のやり取りを眺めながら、ただ立ち尽くしていた。
身を挺して男子生徒を助けようとした勇敢なエルザと、冷静に判断して魔法で二人を助けたアンナ。
そして、慌てるばかりで何もできなかった自分……
いたたまれなくなり目を伏せたニーエ。ふとその耳に、奇妙な音が聞こえた。
虫の羽音に似た音。どこから聞こえるのかと視線を巡らせ、地面に落ちた箒が目に入った。
先程まで男子生徒が乗っていた箒は彼と共に地面に落ち、止まっている……はずだった。しかしよく見れば柄の先は地面の土を削り、穂先は一本一本が震えている。それらがこすれ合う度に虫の羽音にも似た音が盛れていた。
――魔力が、まだ箒に残っている。
その可能性に気付いた瞬間、ニーエは箒の先に視線を向けた。その数メートル先、生け垣を隔てた向こうには低学年の生徒達が興奮気味に話をしている。
箒が震えながら一人でに持ちあがる。
けれどまだ誰もその事に気付いていない。
ニーエはごくりと唾を飲み込んで魔法の杖を構えた。
穂先が更に震え、音が次第に大きくなり、そして箒の柄が生け垣へと向けられ――
そして、放たれた矢のように風切り音と共に飛んだ。
「風よ!」
ニーエは杖を振るう。ここでしくじれば、生け垣の向こうの生徒達に被害が及ぶ。
何としても止めなくては。
「源を経ち、その力を止めよ!」
周囲の空気が舞い上がり凝縮する。鋭さを増した風は箒へと襲い掛かり、その柄を分断した。
柄を断ち切られた箒は、生け垣へ届く前にあっけなく地面へと落ちる。
間に合ったのだと、ほっと息をつくニーエ。周囲は何事があったのかとざわつき――
やがて、一人の怒号が上がった。
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