アセビの魔女

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アセビの魔女

「ねぇ、『13の書』って知ってる?」 目前に高くそびえる本棚。その一冊一冊を指でなぞりながら背表紙を確かめていたニーエは、唐突の囁きに瞳を瞬かせた。 問いかけたのは、隣で一緒に本を探していた友人のアンナだ。 おさげにした黒髪と黒い瞳。まんまる眼鏡がトレードマークの少女は、真面目そうな風貌とは裏腹に怪談の類が大好き。 「13の書?何それ?」 アンナの性格上、ここでしっかり聞いておかないと寝る前に枕元で語り出しかねない。友人の性格をよくわかっているニーエは、本を探す手を止めて話に耳を傾ける。 以前、枕元で情感たっぷりに怪談を語られ、朝まで眠る事ができなかったニーエ。それ以来、二度と同じ轍を踏まないようにこの手の話には細心の注意を払っている。 アンナはニーエの反応に満足したのか、嬉しそうに瞳を輝かせた。 「この図書館のどこかにあってね、読んだ人を取り込んでしまうんですって」 「どこかに……?」 ニーエは周囲を見回した。夕日で茜色に染まった図書館では、利用者が各々本に向かい合っている。 本の匂いと、ページをめくる音、それから誰かの囁き声。この穏やかな空間には、怪しいものが入り込む余地などないように思えた。 何より、この図書室は厳重に守られているのだ。この学園と同じく。 「有害な魔導書は紛れ込まないように学園がチェックしてるでしょ」 「そこをすり抜けて来るから怖いのよ」 訝しむニーエに、アンナは何故か得意気に胸を張った。怪談好きの友人は、何かと物事を物騒な方向に持って行きたがる。 「お二人さーん、怪談話で盛り上がり中なのはいいけど本は見つかったの?」 明るい声に二人が顔を上げると、本棚の向こうから金髪の少女が顔を覗かせていた。ポニーテールにした金髪と、ぱっちりとした青いツリ目が快活な印象を与える。 「ごめんエリザ、もうちょっと待って」 ニーエが答えると、エリザと呼ばれた少女は小さく手を振って顔を引っ込めた。 もう一人の友人であるエリザは、本人曰く「文字が規則正しく整列してるだけで眠くなっちゃう」らしく、図書室までついて来ても本棚には近寄らない。 「さ、アンナ。エリザが寝ちゃう前に本を借りましょう」 「そうね。図書館の机をベッドにされない内に」 ニーエとアンナはくすりと笑うと、ぎっしりと本が詰まった本棚を見上げた。
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