その1

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「失礼します」 そう言いながら、校長室の扉をノックすると、 「どうぞ」 そんな校長の低い声を押し返すように扉を開けると 田紋潤三校長はグラウンドを見ながら窓際に立ちつくしていた。 その背中からは、どことなく憤りのようなものが伝わってきて 僕の背中にも汗が滲んでくるのが自分で分かった ほどなくすると、 「ふーーむ」 と、鼻から息でもなく声でもないような唸り声をあげ、 ゆっくり振り向いた田紋校長を見ながら、僕は 「いつもながら思うことだけども  水戸黄門の悪代官にならオーディションなしでも受かりそうな顔だぜ」 そう心の中で呟いた自分の言葉を飲み込んだ。 田紋校長は 厚顔にオールバックの髪型、金縁の眼鏡を乗っけた鼻を広く拡げ、 仕立てのいいストライプの紺のスーツの上着のポケットに 両手を突っ込みながら 「多田先生・・・」 いきなり僕の名を噛みしめるように呼ぶと、 2、3歩歩み寄りながら矢継ぎ早に 「1回戦なんかで負けてたんじゃあ、 リトルの子らはうちを受験すらしませんよ、  もう、三十五年も甲子園から遠ざかり、ここ何年も常に2回戦負けだ、  この状況をどうお考えですかな?」 田紋校長は一気にまくしたてた。     
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