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何かが山から
R君が卒業した中学校では、三年生が近所の川の源流を辿って学校の裏山を登るという課外授業が毎春行われていた。授業では毎年T田さんという初老の男性が、ボランティアで指揮をとってくれていた。
獣道のような山道を、T田さんは見事な健脚ぶりで進んでいく。この授業はT田さんなしでは成立しないらしく、T田さんが盲腸で入院した年には中止になったという。それほど道のりが難解なのかと思えば、どうも理由はそれだけではないらしい。
道なき道にもかかわらず、道中には小さな祠や神社、石仏や道祖神があり、T田さんはそれらを通るたびに
「山に入らせてもらっている御礼をしようね」
と、生徒たちに手を合わさせた。そして何度も
「山は下山の方が大変だからね。体力は温存しておいてね」
下山についての注意を促してきた。
ついに川の源流点に着き、その小さなせせらぎに声をあげた後、いざ下山となった際に、T田さんは生徒たちにこんな忠告をした。
「帰りは少し急ぐよ。最初の坂では、私がイイと言うまで振り向かないで一気に下りること。約束ね」
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