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それは月も星もない曇天の夜だった。明朝、本島からダイビング客が来る予定だったので、その日の飲み会はひと足先に上がらせてもらったのだが、またしても道に迷ってしまった。頼るべき物も空には視えず、ひたすら勘に任せ、文字通り『風の吹くまま』に歩いた。しかしその夜は歩いても歩いても、自宅に辿り着く事が出来なかった。
翌朝、誠司さんは見知らぬ神社の祠で目が覚めた。日の出の太陽の位置を目印にショップに戻り、無事お客さんを迎える事が出来たが、それから五日間ほど、発熱と嘔吐で寝込む事になってしまった。
「スライム? あんな感じの緑の粘着物を延々に吐いてました。あれ、なんだったんでしょうね」
神社の事が気になり、その後明るい内に捜したが、ついに見つける事は出来なかった。
次の飲み会で、その話を青年団の仲間にしたところ、そんな神社には心当たりがないと皆は口を揃えた。
だが明らかにその日以降、島の人達の誠司さんへの態度が変わった。飲み会の誘いもぱったり減り、道で遭ってもよそよそしく、距離を置かれるようになってしまった。
結局、誠司さんは三年も持たず、店を閉め本島に戻った。
「島に、嫌われちゃったんですかね?」
誠司さんは、寂しそうに笑った。
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