終章-3 聖堂

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終章-3 聖堂

今上の君は、奇跡の聖人とともにあるという。そんな噂を聞いたのは、十年も前の暮れのことだった。 山向こうの村が、不作により年貢を納められない事態になったそうだ。それだけでも万事休すというところに、ろくすっぽ飯も食えず弱った連中を逸り病が襲った。病では周りの村々も手を差し伸べるわけにもいかず、もはや滅びるまで街道を塞ごうという算段が取りざたされたとき、ふらりと聖人が現れた。 帝の命で訪ったといった聖人は、食い物と薬と法術で病を討ち果たしたのち、聖堂を立てて去った。以降土地は肥え、病を得ても聖堂に入れば自然と癒え、争いも起きず今年は豊作になりそうだという。そんな村が、山向こうのみならず帝国のあちこちに遍在するそうだ。 今年は、うちの村には来なかった。不公平ではないか。     
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