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押し包む暗黒とそれを押しのけて瞬くように輝く黄金の玉座は、訪うものを自然と畏怖させ膝まづかせるという。
建国王が暗殺者の手により失われてのち玉座の間は間者の侵入を防ぐために外界との接続を過剰なまでに制限されており、昼日中であろうと玉座を照らし出すのは揺らめく灯火のみしかない。
暗闇の、中金色に輝く玉座より発せられる勅命を受けるのは、臣民にとって神託を受けるにも等しい。
この空間に踏み入れられるものは王族に連なるもの、あるいは特別に許されたもののみであり、貴族といえど玉座の間に入るという一事をもって家史に名を遺すほどの栄誉である。
その、いわば神域ともいうべき玉座の間が今、血に穢された。
節くれだった皮ばかりの右腕が切り飛ばされ、鮮血と紫光をまき散らしながら床に転がっている。
玉座の階の下、右腕を失った老いた道化が袈裟切りに切り捨てられ、醜く四肢を折り曲げたまま仮面に覆われた顔を血の海に伏して沈んでいた。尋常ならば絶命しているであろう老人の体はしかし、紫の魔光を放ちながら僅かに蠢いている。さながら腐乱した遺骸が蛆の蠕動でうねるがごとき、異様な光景であった。
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