終章-3 聖堂

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土地を肥やすというのは大変な作業だ。ひたすら黙々と鍬鋤を入れ肥料をまき作物を選び、それでも天候に左右されて決まった実りなど得られる確約はない。いかに気を配ったところで土地は必ず痩せていきいつしか死ぬ。それが理だ。聖人だか何だか知らないが、祈っただけで土地が肥えるなどあるはずがない。あるとすれば、何が違うものを食いつぶしている。そんな気がしてならない。 でなければ、この血豆にかたどられた手が織りなしてきた苦労は、何だったというのか。老いて鋤を引けなくなった牛を、泣きながら潰して食ったあの思いはなんなのだ。 今年も、うちの村には来なかった。不公平ではないか。なぜ、この村には来ないのだ。 寒村の暮らしなど酷いものだ。町と違い食べられるものなど限られている。自然、病を得ても早々癒すことなどできない。子供ならなおさらだ。医者なんて生き物は見たことがなく、薬と称してばあさんの煎じた草を飲むのがせいぜいだ。5歳を過ぎて生きるなど3人に一人がいいところ、子供の墓など作るのも面倒だ。どうせすぐ死ぬのだから。 それが、聖堂に入るだけで癒されるなどど異常ではないか。なにか詐術の類ではないのか。 聖堂があれば、名を得る前に死んだ俺の赤子は、生きたのか。ひもじさに身をよじりながら死んだあの子は何だったのだ。 今年も、うちの村には来なかった。不公平ではないか。なぜ、この村には来ないのだ。なぜ我が子は死なねばならなかった。     
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