終章 英雄

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「貞よ」 直言である。異例の事態に場の全員が硬直し、さしもの心了も伏したまま動けなくなった。その全身を冷汗が伝う。 「貴様が振るいしは、貞家伝来の降魔調伏天星剣、払闇黎明で、相違ないな」 硬直する心了の内心を疑問が飛び交う。陛下は未だ30半ばの壮年で在らせられる。それがこの100年の疲労にとらわれたかのような途切れ途切れの声色は何だ。10代も前の帝より秘密裏に下賜された払闇黎明の存在は秘伝中の秘伝、家中でも当主と嫡子以外には一切知らせない門外不出の秘宝。よもやこれを機会に召し上げようという御心か。そもそも尚書史夫ならいざ知らず、少府ごときに直言とはこれはいかなる椿事か。 「直言を許す」 「…左様にございます。我が祖貞法楽が、子々孫々帝国に徒成す邪悪現れし時には其を討ち滅ぼすべしとの勅命とともに賜ったと聞き及んでございますれば、今日この機会に他無しと佩刀いたしました」 混乱のまま、そう答えるしかない心了に帝は言を継ぐ。 「ならばよい。少府、貞心了。その剣をもって人心を惑わし帝国を脅かす天遼豪燕城の魔人を討て。これは勅命である。これ以後貞心了には帝国のあらゆる財を用いる権限を与える。直ちに出立せよ」     
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