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直々にお出ましとは、予想外の人物を目の前にして頭も体も動きが止まった。
「どうして、ここにいるんです」
政治家の神妙な面持ちに作り上げられた表情は、不吉な予感がする。重々しい雰囲気とはこういうものだろう、と画策するセリフさえ聞こえてきそうだ。
「すぐに伝えようと思ったんだが、遅かったようだ」
政治家は、皺の寄った唇で言った。
君の妻の肺は、後鳥羽のものになっていたそうだ。
はい?と、私は声を上げる。
あいつ自身が、自分のドナーを探していたんだよ、と彼は言った。綺麗な、無垢で新鮮な肺を欲しがっていた。今、君が撃った後鳥羽には既に移植されていたよ。
私の中で妻が言う。
ほら、暴力には暴力で返さないほうがいいって言ったでしょ。
そうだな、と私は珍しく賛同する。だけど、これじゃあまりにも惨いじゃないか。
妻は言った。
自分が正しいと思うことを突き通すのよ。
私は出頭した。
今は独房の中で、刑期が過ぎるのを待っている。
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