昏海/クライウミ

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昏海/クライウミ

あの日までは良かった。おれの容姿が女々しいこと。 女に間違われることは母親にとって自慢のようだったから、おれは随分可愛がられたし、おれ自身母親に喜んでもらえることが嬉しかった。 あの日までは。 何であの日、父親と出掛けたんだろう。 中学入学前だった。 また女と間違えられた。 間違いを犯した若い女子店員は、大きな声で笑って言い訳した。 あの時、父親の顔が見れなかった。 おれが人前に出ることは、父親にとっては屈辱的な行為だったに違いない。 学ランを着ていれば女に間違われることはない。 それでもおれは、人目を避けた。 いつ父を辱められるか、怯えながら生活してきた。 「(りょう)ってかわいいよな」 高校の教室で、初めて男に冒涜された。 響也(きょうや)という名の、顔は良いのに浮ついたところのない同級生。 おれは無視した。 話したくない。 なのにそいつは笑いかけてくる。 「そーゆートコロがまたかわいい」 「うるさいな」 男なら言えばわかってくれるはず。 迷惑がったらやめてくれるはず。 「悪い。俺、思ったこと言わなきゃ気が済まない人だから」 やっぱり、わかってくれた。 おれのためにちゃんと謝罪してくれた。 女は駄目だ。     
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