小説家さんとプロット

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 このプロットをこのまま進めていいのか考えていたはずなのに、ふと頭に浮かんだのはそんな言葉。  自分なりに自分の今後を真剣に考えてとった行動のはずだった。それなのに二十代半ばのうちにハローワークに通って就職活動をしていれば会社員として安定した給料をもらえていたかもしれない。と時折思ってしまう。  もっと、人より秀でた何かがあればなぁ。  学生のころから人より出来ることなんて何も無かった。勉強も運動もふつう。芸術の才能がある訳でも無かった。今より人見知りで引っ込み思案だったから人を率いるようなリーダーの資質も無かったし、人と違うことができるような人間でも無かった。  全部のことが平凡に出来るくらいなら致命的に出来ないことがあってもいいから飛び抜けて出来ることが欲しかった。全部が平凡じゃ社会に出たら何も出来ないのと同じだもんなぁ。  人生三十一年目にもなって自分の無能さを実感していると大河さんの姿が脳裏をよぎる。  きっと彼は私と違って特別な何かが出来る人なんだろうなぁ。話しているだけで人とは違う何かを感じるし。  彼のことを考えていると視線が自分の手へと向く。  そういえば昨日、手を握られたんだっけ。  その時のことを思い出すと恥ずかしいような、むず痒いような気持ちになってそれを誤魔化そうと首を軽く左右に振る。  男が男相手にこんな気持ちになるなんてどうかしてる。  大福をつくったら渡さなくちゃいけないんだから、最低でもあと一回は会うんだから、その時に変に思われないようにしないと。  気持ちを落ち着けるために息をゆっくりと吐き、手に向けていた視線を文字が並んだ画面に戻す。  まだ決まってないことが多いけれどこのままプロットを進めれば自然とテーマが決まっていくかもしれないし先を進めよう。
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