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ノートパソコンのキーボードを叩いているとその横に置いてあったスマホの着信音が鳴る。
「えっ」
また庵さんからかな。名前を見ずに電話をとりそうになってから画面に大河さんと表示されていることに気付いて通話ボタンを押そうとしていた指が止まる。
何の用だろう。忘れていたはずだったのにまた胸がどきりと高鳴ってそれを落ち着けようとふぅと息を吐いてから電話に出る。
「もしもし」
『もしもしフミさん?今どこにいるの?』
「家、ですけれど」
そう答えてからハッとしてパソコン画面の時計を確認する。午後五時二十分。外で働いている人が帰ってきているにしては早すぎる時間だった。
もし訊かれたら早帰りしたことにでもしないとな。と言い訳を考えるが彼はそのことを疑問に思わなかったようで
『昨日会った公園に来られる?』
と問いかけてくる。
「行けますけど」
『じゃあ待ってるから』
「えっ、」
ちょっと、大河さん?と言葉を続けるが彼は自分が言葉を発してすぐに電話を切ってしまったらしく私の戸惑いの声は彼に届かなかった。
どうせ夕飯の買い出しに行くのだから手間では無いのだけれど。
不意打ちだったなぁ。
気持ちを落ち着けようと再び息を吐いてから保存していなかったプロットのファイルを保存し、出かける準備をするために椅子から立ちあがる。
寝ぐせ、立ってたりしないよな?
普段はそこまで気にしたりしないのに、足は鞄を取りに向かっているが手は髪をいじってしまう。
って、初恋の中学生か。
自分が相当気持ちの悪いことをしていることに気付いて自分の髪をわしゃわしゃとかき回す。
ほら、だって、男だってテレビで活躍しているような俳優さんとか、アイドルに会ったら緊張したり自分の容姿が気になったりするだろう。きっとそれと同じ現象が起こっているだけだ。
うん。そうに決まってる。
私はそう自分に言い聞かせ、バックを肩にかけると洗面所に向かった。
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