1 薄闇

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1 薄闇

 女と目が合った。細身のジーパンに白い作業着を羽織った若い女は、肩まで伸びた髪先を指でもてあそびながら、低い天井を支える鉄柱の陰からこちらを見ていた。育ちの良い猫を思わせる大きな目と丸い鼻。童顔で、すらっとした背格好のわりに幼い印象を受けた。  彼女は、まるでなにかを確かめるように、成瀬創(なるせつくる)の顔を好奇をふくんだ目でしばらく凝視したあと、納得したような表情をすると、ぷいと顔を背け、柱の向こうに消えた。一歩前へ出て確認すると、そこにはドアひとつ分の狭隘な出入口があり、女はそこから通じる階段を下りて行ったようだ。足音がたかたかとフェイドアウトしていく。  鈍いクリーム色のペンキが塗られた鉄柱には排水管やガス管らしき金属のパイプがいくつも張り付いていた。それらは天井を走り、漆喰の壁を這い、創の足元の床面にまで伸びている。廊下のはるか先まで、永遠に、どこからかどこかへとつながっているように見えた。  妙な気分だった。方向感覚がなかった。ここがどこで自分が何をしていたか思い出せなかった。  すぐそばで、ごとん、と乱暴な音がした。 「おい、成瀬、おい」     
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