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鼻で語るひとびと
鼻語について、まず驚かされるのは、その圧倒的な語彙の豊富さである。口を閉じたまま鼻息だけで表現できる音の種類は限られているが、前後の音の強弱や長さに微妙な変化をつけることで、日常会話において必要とされるあらゆる状況表現が可能になるのだ。
とはいえ、いわば口語族であるわれわれにとって、それら鼻語の単語や構文を正確に聞き分けるのは難しい。ジャングルに住む鼻語族のひとびとが先天的に持つ超人的な聴力がなければ複雑な会話は成り立たない。二十五年にわたるフィールドワークを通じて書かれた『鼻で語るひとびと』の著者イヴァン・ヴォン・ジョリノフスキー博士ですら、幼児並の会話能力しか獲得できなかったというのであるから、その難しさは想像に難くないだろう。
鼻語族という呼び方は俗称で、正式には「フンフ族」、または「フンフッ族」という。「フンフ」とは鼻語で「人間」という意味だ。
もちろん、口で「フンフ」と言っても彼らに通じるわけはなく、「フン」と鼻で息を吐き、つづけて「フ」と小さく吐いて止める。この「フ」のタイミングが狂うと「固いうおのめ」あるいは、「なきぼくろ」という意味になってしまう。
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