鼻で語るひとびと

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 フフンの腕を引いて一緒に来るよう促したが、彼女は動こうとしなかった。男たちはもうすぐそこまで迫っている。  僕は「フフン、フッフフンフン、スンススズーグ!」(フフン、また必ず迎えに来る!)と言った。  フフンはなにかを言った。意味はわからなかった。  僕は小屋の中に置いていたバックパックをつかむと、裸足のまま飛びだした。振り返ると、目の前に飛んできた槍の切っ先があり、間一髪かわした。男衆たちの巻き上げた砂煙にかすんで、フフンの姿は見えなかった。  僕は全速力で林を抜け、村の出口を目指した。飛んでくるのは槍だけでなく、石や手斧もあって、たしかな殺意を感じた。  集会広場を横切った。鍋をかきまぜていたおばさんたちが、こちらを見てぽかんと口を開けていた。僕は「フン、スンスフン!」(お世話になりました!)と鼻水を飛び散らかせながら駆け抜けた。通じていたかどうかはわからない。  飛んできた槍が足元をかすめ、男衆が鍋を蹴飛ばしておばさんの鼻悲鳴が上がる。攻撃は止まらない。  広場から出口に通じる林道を抜けたとき、車のクラクションが聞こえた。二十メートルほど先にジープが停まっていて、いつもの赤いジャンパーを着たフムフンが手を上げていた。 「早く乗って!」     
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