鼻で語るひとびと

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 それはフンフ族の別の村の男だけでなく、僕のような外国人でも例外ではない。むしろ余計に喜ばれる。ただし、それが許されるのは男衆が遠征で村を留守にしている数日のみで、その短い間にことをすませなければならない。  僕が村に滞在しはじめてから三日目に村長は急きょ狩りのための遠征に出かけることを決め、村の若い衆三十人を連れて旅立った。残った村の男は老人と子どもだけである。  この「遠征」というのは嘘で、実際は近くの別の村に滞在しているだけだ。旅人が村の男たちの目を気にせず子作りにはげむことができるようにするためだが、それだと女を喜んで差し出したみたいなことになってしまうので、「好色な旅人が村の女の魅力に抗えず、勇猛な男衆の目を盗んでことにおよんだ」という構図を作りたいのだ。なかなか複雑な民族である。  僕はこのヴィレッジ・ステイ・ツアーに参加するため、三日間の鼻語講習を受け、簡単な会話ならできるようになっていた。講師兼ガイドのフムフンによると、僕の鼻語の才能はずばぬけているらしく、十年に一度の逸材だそうだ。「君は生まれてくるところを間違った」と言われ、僕は複雑な気持ちになった。  講習のあと、書類審査や健康診断などを経て、晴れて役所から滞在許可証を発行された。フンフ族の子種獲得の儀式は政府公認なのだ。     
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