鼻で語るひとびと

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 村での生活はスローライフそのものだった。日の出とともに起き、子どもたちと戯れたり、鼻相撲を取ったり、川で泳いだりして、日暮れまで過ごす。とにかく気ままだ。広場に行けばおばさんたちがかまどで調理した焼鶏やイモ料理をくれる。町からの配給や観光収入で買った小麦もあるし、僕の分のミネラルウォーターや携帯食品がフムフンによって小屋に用意されていたので、食事に困ることはなかった。  未開人と呼ばれる彼らとともに過ごしていると、意識させられることがある。われわれ文明人は、人が孤独であることに気付いてしまった人間なのか、それとも、孤独ではないことを忘れていただけなのか。村という狭い愛情空間で育まれたフンフ族のひとびとの絆は、僕のなかに眠っていたなにか、さび付いていたある種の感覚器官を、びしびしと刺激する。  はじめの三日の間に村長が客として認めた時点で、旅人は忌むべき存在ではなく、豊穣をもたらす英雄となる。そうは言っても本当に村の女衆に受け入れられるのだろうか、という僕の心配は杞憂だった。彼女らは好意的に接してきて、中には露骨な好色な視線を向けてくる女もいて、こちらがたじろぐほどだった。書類審査のときに村の女に写真が回覧されていて、そこでも審査が行われていたということだった。  原則、僕に女たちを拒む権利はなかったが、その必要はなかった。彼女らはみな美しく、スタイルも気だてもよかった。     
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