鼻で語るひとびと

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 フンフ族は男女とも目と鼻の穴が大きく発達しているが、それ以上大きくなると醜くなるというぎりぎりのラインで奇跡の造形美が成り立っており、それが彼女らの色気を強めていた。特徴のない美人より特徴のある美人のほうが格段に存在感があり、そそられるものだ。  最初に僕の小屋に来たフフンという女性は特に美しかった。フンフ族だけでなく、僕がそれまでに知り合ったすべての女性と比較しても五本の指に入るほどの美人で、笑顔を絶やさない快活な彼女が、村の男衆に人気があるのは容易に想像できた。  そんなフフンと向かい合って膝を突き合わせていると、胸が高鳴った。身体に巻きつけた碧い布の隙間から見える滑らかな褐色の肌、流れるような黒髪と、緑瑪瑙のような瞳。ほのかな甘い香りが僕の理性をまどろませた。  僕は精いっぱいの気持ちをこめて、鼻語講習で習った口説き文句を彼女に聞かせた。 「フフッフ、ンフンフーフ、スススフン、ンフクックッ、フン」(君の髪はハチドリの羽根のように美しい)  それに対し、フフンは顔を赤らめて、 「フッフススン、スンスンフーフフ、フフ、フフン、フーンフフン」  と答える。  なんて言っているのかはわからなかったが、彼女の笑顔を見て好意的な言葉だということは理解できた。     
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