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手のひらと頬に冷たい感触、背中には生暖かい吐息。
動かせない視界の中で
ぽつり
ぽつり
生まれたての雨は、赤子の泣き声のように不愉快な音をたてる。
「うるさい」
小さく呟いた言葉は、きっと誰の耳にも入らないだろう。
電車という小さな共有スペースに詰め込まれた私たちは、必死に個人を貫こうとするから。
音楽を聴き。
ソーシャルゲームにのめり込み。
繰り返される広告をただただ眺め。
杖を持った老人を、苦しくて泣いた子供を、疲れきった会社員を、自分のセカイから亡き者にするのだ。
自立しないと生きていけない、本当の繋がりなんて誰も求めない、上部と上部が複雑に絡まったセカイ。
それが上京してきた私に見えたものだ。
「うるさい……」
ざわつく心を諌める。
都会に憧れ家を出ることを決めた。
都会が似合うかっこいい大人になると決めた。
ちゃんと自立して、反対した親を笑ってやると決めた。
私は周りとは違う、もう大人なんだと心の底から信じていた。
でも、なにもかも間違いだった。
私は、18年間なにをやっていたのだろう。
高いお金を払って入った学舎で、いったいなにを学べたんだろう。
勉強なんてやってる場合じゃなかった。本当に、本当に……
社会が求めるのは大人だ。
ワガママを言う子供に居場所はない。
愛想よく笑えない子供に居場所はない。
だから、子供のまま社会に出た私は大人にならなくてはならない。
我慢を覚え、愛想笑いを覚え、お世辞を覚え、暗黙のルールを覚え、覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え覚え……
「……ッ!」
これ以上はいけない。
大人でいられらなくなる。
外のセカイでは、私は大人でいなくてはならない。
だってここは大人が住むセカイなのだから。
ぴちゃっ
ぴちゃっ
大人になりたい子供の、大人に近づくための一歩。
大人はきちんと謝れないといけない。
だからーー
「ごめんね、ありがとう」
更にもう一歩、感謝の言葉もつけてあげよう。
今日学んだばかりの、とっておきだ。
雨に濡れながら足早に歩く
あぁ、今日は雨でよかった
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