「彼の色」

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「苦手だなぁ」 それが彼と初めて出会った時の印象だ。 からっぽというか。 壊れているというか。 別に嫌な訳ではないが、違和感を感じていたのだ。 その正体が、今日少しだけ見えた気がした。 彼は「自分の色を削ぎ落とした」らしい。 『無色透明』 いや、虚空の『黒』の方が近いか。 達観しているようで冷めていて。 たぶん、もう自分のことも面白いと思えていないのだろう。 目的地へ這いずる闇。 目的地へ辿り着いたとしても、そのまま大地をのみ込んでしまいそうな虚無。 夢に挑む人を見て「生半可ではつまらない」と苦笑いをこぼす。 そんな彼に色をつけることができる者はいるのだろうか。 全てを許す白では役不足。 自分がオリジナルであり、常に新しい色を創造していく、そんな鮮やかな原色ならばあるいは、といったところか。 どのみち、僕のパステルカラーでは興味を引くのも難しいだろう。 もしも彼と縁が続くのであれば、見てみたいものだ。 その黒が濁っていく瞬間を。
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