冬入りに

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懐かしい声が聞こえた。肌に空気が突き刺さるようなこんな季節のこんな朝方に、公園にいるようなのは犬の散歩をする人か、ランニングする人くらいなものだ。皆下を向き厚手の衣服に引きこもっている。少し前ならば、上を見て綺麗に染まった木々を見ていただろうが、今ではもうそれらもすっかり落ちてしまった。誰一人として私に声をかけるような者はいない。その声はこの公園でも一際目立つ桜の木から聞こえてくる。近くへよってみると木には1つの蕾がついていた。まだ冬入りだというのに、この頃の寒暖の差が激しく冬が終わったと勘違いしたのだろう。その蕾の向こうには1本の細道があった。私もまだ入ったことの無い場所だ。どうやら声の主はその奥から私を呼んでいるようだ。 この公園は自然が多いとは思っていたが、ここまでとは。霜が降り少し濡れた草花は身を隠すようにひっそりと、そびえ立つ木々は常緑樹なのだろうか青々と葉を携え朝日を遮断する。そろそろ引き返そうかと思っている時にその声はまた聞こえる。よく分からないがもう少しで着くらしい。声に指示されるままに歩いていると、少し大きな古びた建物が見えてきた。柱にはツタが伸び屋根からは草がはみ出ているその家を木々が囲むように少しひらけている。近づいてみるとその大きいのがよく分かる。ステンドグラスの窓に朝日が入り綺麗な色を床に映し出している。その模様が何だか懐かしいような気がした。
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