情景

4/4
前へ
/13ページ
次へ
王城の鐘楼から夕刻を告げる鐘の音が流れた。 書記官にはそれぞれ部屋が与えられている。部屋の大きさはそれぞれだが、私の部屋は大きくなく小さくなく、丁度いい大きさの部屋である。 仕事にひと段落つけて、帰り支度を始める。カバンに仕事道具を入れて、書類を専用の箱に収めて鍵をかけて最後に部屋の鍵をかける。 通路を歩きながら2つ扉をぬけて、門から出陣する騎士団が集合する広場に出る。 城門は正門含めて3つあり、正門。右門。左門と呼ばれる。左右の門も広場に繋がっているので騎士団の出陣となれば、3つの門から騎士団や兵団が門から出ることになる。 出陣以外で正門を通るのは王のみと決められているので、開門されることはすくなく、通用口から出入りすることがほとんどだ。左右の門は朝の1つ鐘から夕べの6つ鐘まで開門されている。3門は夜、出ることは許されても王城へ入ることは非常時以外認められない。門番は陛下直属の兵団が24時間交代制で警備している。 私は広場の外周通路を通り左門から出る。 王都は丘陵にできた旧市街、一番古い第1城門から第2城門までが新市街と呼び、第二城門から第三城門と埋め立てた旧運河地帯は平民街。さらに発展して広がっている地域は新平民街と呼ばれており、地図にも記載されている。 しかし豊かな平民が旧市街の貴族の屋敷を買い求める場合もあるし、貴族たちがより広い豪勢な屋敷を建設するため発展中の新平民街に土地を求めるようだ。 私は王城の入り口からわずかばかりの距離にある王城に勤める平民向けの官舎に住んでいる。私は官舎に荷物を降ろすと、いつものように日が暮れ始めた旧市街の、しばらく第一城門あたりにあるなじみの食堂に入った。 「いらっしゃいいつものでいいかい。」 威勢のいいおかみさんの声が聞こえたので、よろしくお願いしますという意味で右手を上げる。毎度あり。とすぐさま返事が返ってくる。すぐにエール酒のジョッキが運ばれてきてまずぐいと飲んだ。 本来ならば官舎には食堂があるがなかなか居心地がよくない。時には嫌味を言われることもある。自分の立場もわきまえているので気にしてはいない。 しかし人間限度がある。せめて夕食は静かに食べたいと思う。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加