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あたたかい羊肉のスープにパン。サラダを胃に収め一息ついた。
エール酒を飲みながら、周囲の話に耳を傾ける。
仕事、恋愛、人間関係の話が聞こえた。自分なりにこういう話は安心する。
官舎の食堂ではこういうことはないから、新鮮な情報を入れることできるが、これが仕事に必ず活用できるわけではない。王城での仕事だけに染まりたくない。私の中の複雑な思いはある。
きっとこの中にも現在の王国の在り方に不満をもっている民もいるものだと感じる。
そして最初に記したように、不満の袋が爆発することがあるのではないかと、感じ、また思う私がいる。
「よう。書記官殿ではありませんか。」
「なんのことですか議員殿。」
「お互いなんだかんだ偉くなったな。自分の服装を忘れるな。」
考えてみれば私の今の、いつもここに来る時の服装は、文官礼装だったことに気づく。見る人が見れば、王国の役人だとすぐわかるだろう。
「そうでしたね議員殿。お久しぶりです。」
聞きなれた声、見慣れた姿。民会子息向け学校から同窓で、父上君の後を受けて王都民会議員を務めている友人だ。彼は私を食堂2階の静かな席へ誘った。従者と思われる人物が2人こちらをうかがっている。
友人は駆け出しの民会議員として活動している。王都民会は、王都独自の自治機関のようなもので、陛下の承認をうけて行政をおこなっている。陛下は民会の決定事項に対して拒否権を有しており、最近では拒否権発動を回避する目的で民会の政策を諸侯会議の議員が予備審査して、民会が議決することが増えている。場合によっては互いに賄賂のやりとりが行われているともいう。
友人はどこまで知っているのだろう。
再開を祝して飲まないわけにいかないな。と、彼はエール酒を注文する。すぐ2杯のエール酒が運ばれてきた。
「太陽の沈まない王国に。」
「偉大な守護の国の為に。」
ジョッキを合わせてぐいと飲んだ。私はしばし考えている。
「議員殿がここに来たのは偶然ではないのでしょう?」
私はじっと視線を投げかけて様子を見る。彼はエールのジョッキを飲み干しお替りを注文した。
「だとしたらなんのために来たと思う?」
なにか悪戯っぽい笑みを浮かべて、視線を投げ返してきた。その瞳にはなにか隠している色みたいな印象を感じる。
「・・・書記官殿・・・しばらく副都あたりに旅に出たほうがいいね」
私は突然の言葉に不意に突かれた。
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