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「旅はいいぞ。少し息抜きしたらどうだろうね。」
「王都から離れる・・・何か起きるのか?」
私もエール酒をあおってお替りを頼んだ。あまりよくないイメージが沸き立つ。
「民会は守旧派と改革派がいるし穏健派も過激派もいる。ここのところ乱れ気味だ。」
視線が厳しくなる。
「諸侯会議が介入しないと、議案の審議もままならない。議決のために俺にさえ賄賂が届くようになったよ。」
なんなのだろうなとつぶやき視線は固まったまま。エール酒が運ばれてくる。
「特に貧民対策に予算が回らない。回すべきなのに握りつぶされる。不満貧民組織化の噂もある。民会や諸侯会議は密偵を大量に貧民街へ送り込んでるが俺のとこにさえ良くない報告が聞こえてくる。なら貧民救済すべきなんだ。」
「・・・」
「民会には新平民街の貧民対策を進めたいと考えるグループがいる。ところが諸侯会議と繋がってる民会議員と貴族連中は貧民を駆逐して広い土地に豪華屋敷を作ろうと狙うだけだ。貧民はどんどん追い詰められてる。貧民対策で金を使わず爆発させて叩きつぶすつもりだ。」
叛乱が起こる。そんな言葉が口からもれでそうだった。しかしあまりにも重い言葉。易々発言していいものではないと感じる。友人からの警告だ。王都から避難しろと、目の前の友人は言っているのだ。いつ爆発してもわからない。私の危機感はもう直近の危機だったのだ。
「方法論が間違ってる。うまくいかなきゃ取り返しがつかない。」
「悪いことは言わない。すぐに旅に出たほうがいい。」
彼はエール酒をぐいぐい飲みほして私の分の路銀まで支払って席を立った。
私は強い動揺の気持ちを抱いたまま店を出た。
街灯のオレンジの明かりが小さく路外を照らしている。旧市街の道を官舎へむかって歩く。すれ違う巡回している騎兵さえ、何かたくらみがあってのことか考えてしまう。
考えてみると私はここ永らく旧市街から出ていなかった。新市街はおろか平民街まで足を延ばしたことは最近ない。直接空気を感じていなかった。私は王城内の現象で不満を感じていただけだった。
友人は民会で苦しみを感じているのだろう。
官舎に帰り部屋で私はランプに火をともし今まで持ち歩かなかった陛下より下賜された短刀を取り出し鞘を抜いて布で磨いた。ランプに照らした刀身が鈍く光った。できることなら使いたくない。
友人の警告だとしても、私は王国に殉じると決めている。
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