目が覚めたらパンダだった件。

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目が覚めたらパンダだった件。

 パンダだった。  いや、正確にはパンダになっていた。  その事実に気付いたのは二時間前。柵の向こうから手を振ってくる少女が「パンダさん、パンダさん」と笑顔で手を振ってきた時だ。  最初自分は、とうとう五歳にも満たない女の子にもおちょくられるようになったのかと絶望した。  坂田秀俊。四十九歳。  しがないサラリーマンを続けてはや二十七年。娘がいれば、今頃立派な花嫁になっていたかもしれないが、残念ながら俺は独身。  朝、昼、晩とカップラーメンを食べる休日もあれば、たまに豪勢に一皿百円の回転寿司に行くのがひそかな楽しみ。  仕事はトイレットペーパーの営業をしている。便所で勢いよく回るトイレットペ―パーよりも、自分の人生の方が空回りしている自信あり。  中肉中背という便利な言葉があるが、あれは人の身体を現す言葉ではなく、俺の人生を現す言葉だ。いや、嘘をついた。本当はそれ以下、だ。  自分の人生がこのままではいけないと気付いたのは三十五歳を過ぎた頃だったが、結局気付いただけで軌道修正はできず、ずるずると伸び切った麺のような人生を歩んできた。     
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