第二の名前

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笹を振り回しながら迫ってくる得体の知れない恐怖から逃げようにも、がしゃん! と音が鳴って振り向いたらそこは鉄格子。 その格子の向こうでは、老若男女の様々な顔が嬉しそうにこちらを見ている。お前ら一体何が楽しい? というより、いつから日本人はこんな残酷な民族になったのだ。協調性、和の精神、ヤマトナデシコ。全部嘘だ。大嘘だ! うおー! っと泣き叫ぼうとするも、やっぱり出てくる「うぇえへへへ」。もういい。どうにでもなれ。 謎のサファリパークおやじに抵抗する気持ちも薄れ、だらりと腕を下ろした瞬間、背後の檻の方から少女の声が聞こえた。 「きゅんきゅん、こっち向いて」 ワッツ? 今、もしかして、俺呼ばれたのか? 試しに恐る恐る後ろを振り向くと、きゃーという黄色い声と一緒に「きゅんきゅんこっち向いてー!」とたくさんのリクエスト。 俺だってそれなりの人生を生きてきたし、トイレットペーパーの営業をする上で色んな山場も試行錯誤して乗り越えてきた。 だから、ある程度のことは経験と論理によって答えを導き出す自信はある。今の状況、あのサファリパークおやじの言葉、そして、背後にいるたくさんのギャラリーたちからの言葉。 シャーロックホームズも驚くようなスピードで、俺はある仮説を導き出した。     
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