第二の名前

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おそらく、これは俺の名前なのだ。 このきゅんきゅん、きゅんきゅんという謎の単語の連呼は、決して人々が胸の高鳴りを感じているわけではなく、俺の名前を読んでいるのだ。四十九年生きてきた人生の知恵を全て注いで、俺はそう考える。 俺は自分の推理が正しいかどうか、試してみることにした。目の前のオヤジは、何かに取り憑かれたかのように同じ言葉を繰り返してくる。 「きゅんきゅん」 「うぇえへへ」 「きゅんきゅん」 「うぇえへへ」 四十をとうに過ぎた二人のオヤジの会話がこの内容だと言うのは、もはや日本の行く末も真っ暗だろう。だがしかし、すでに俺のこれからの行く末の方が真っ暗だ。 この謎の言葉のやり取りに合わせて檻の向こうからは、「凄い! 返事してる」「あったまイイなー」なんて言葉も飛び交う始末だ。 どうやら自分の推理に間違いはない。この檻の世界で、俺に与えられた新しい名前は、「きゅんきゅん」、なのだ。 突然見たことも聞いたこともない場所に閉じ込められて、全身毛むくじゃらにされて、それでいて与えられた新しい名前は、きゅんきゅん。     
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