その記憶力、まさに本物

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 どちらにしてもやはりカオス。きっと長谷川さんもこんな状況を見れば、「やっぱり私はカオスじゃなくてラオスに行こう」と断言するだろう。  一体なぜ俺はカオスに来たのか?  先ほども言ったが、記憶力にはかなりの自信がある。だがそんな俺でも、気になる不可解なことがある。  ここに来るまでの記憶が一切ないのだ。  拉致られた。サプライズで連れてこられた。宅配された。郵送された。  わずかでも頭の片隅に手がかりの記憶が残っていればいいのだが、これが残念ながらまったくと言っていいほどない。 変わり映えもしない人生を四十九年間歩んできた男に、こんな展開が生きていてありえるだろうか?  が、俺は考えた。出口を見つけるために、ここまで連れてこられた仮説を必死になって考えて、忘れないように記憶した。思い当たるポイントは主に次の四つだ。 一、 上司に無理やり連れて行かれた三軒目の帰りに、走ってくる乗用車にぶつかり意識不明の重体。そして今も夢の中。 二、 ベランダで洗濯物を干している時に突然周囲が白く光って、宇宙人に連れられた。 三、 実は俺はもともとこちら側の住人で、これまでの記憶の方が全部嘘。  ざっと挙げればこんなものだ。どうだ、メモも取らずにこの記憶力。完璧だろう。     
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