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あの目の前にいるキリンが、いつも俺のことを見下していることだ。高みの見物、ということだろうか。なんだあの圧倒的な余裕感は。腹ただしい。しかも食事中も口をむしゃむしゃさせながら俺のことを見下ろしているのだ。
トイレットペーパーの営業では、俺は散々色んな人達に頭を下げてきた。
ロールが途中で切れたと言われれば頭を下げて、手触りが気に入らないと言われればこれまた頭を下げた。
挙げ句の果てに、「おたくの紙はよく詰まる」と言われた時には、わざわざ自分の家で使っていたトイレットペーパーをお持ちして頭を下げたぐらいだ。
人は相手に敬意を持てば、頭を下げる生き物なのだ。
なのにアイツは何だ? 頭を下げるどころか、高くなっているじゃないか。それでいて、二十七年間も人に頭を下げ続けた自分の前に堂々といる。意味不明だ。
おそらく奴は、いつも俺のことを見下しながら「あーあ、アイツ毛むくじゃらになって可哀そう」なんて思っているに違いない。
自分は薬を飲まされてキリンになったことを棚に上げて、俺のことを見下しているのだろう。こしゃくな。
だが、あの高校生(ということにしておこう)は、致命的なことを見落としている。やはり年の功と言うのだろうか。人生の先輩である俺からすれば、あのキリンになった少年には致命的な欠点があることにすぐに気づいた。それは……
奴はあんな長い首でどうやって自動ドアをくぐるつもりだ?
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