目が覚めたらパンダだった件。

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 あの有名な地獄の絵を書いたダンテでさえも、この世にまさかこんな地獄が存在していたなんて思わなかっただろう。天才芸術家が神様から与えられた使命よりも、自分が神様から与えられた試練の方が圧倒的にレベルが高い。  今まで、胸を張って言えるような人生を歩んではこなかった。いつも自信は無く、考え方は消極的でマイナス的。 二十七年努め続けたトイレットペーパーの営業の仕事も、昇格できたのは一度だけで、現在係長。  だが、これはもしかして人生を逆転できるチャンスなのではないか?  全身毛むくじゃらになってから何一つ状況が理解できないが、これはきっと自分に与えられた試練なのだ。これを乗り越えることで、干からびたクラゲみたいに味気なかった人生に、もう一度潤いを取り戻せるのではないか?  今まで眠っていたポジティブ思考が、どうやらこの不可解なシチュエーションの中で開花したらしい。そう、俺はまだ負けてない。  もう一度ゆっくりと両足に力を込めて、立ち上がってみる。残念ながらバランス感覚も二足歩行の感覚もまだ思い出せないが、先ほどよりかはうまく立てた。 そのわずかな成功体験が、心の中に「希望」という灯火をつける。ここからが、俺の人生の逆転劇の始まりだ!  胸いっぱいに空気を吸い込む。以前とは比べ物にならないほどの、ありえない量の空気が肺に貯まった。そのすべてを覚悟の宣言に変えて、俺は全身全霊で叫んだ。  うぇええへへへへへ!  
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