第二の名前

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第二の名前

心に灯った希望はすぐに打ち砕かれた。 理由は至極単純で、自分に与えられた名前がわかったからだ。 それは突然やってきた。叩いてもビクともしなさそうな檻の中の扉を開けて突然やってきた。 最初、この圧倒的地獄から助けてくれる救世主がやってきたのかと思ったが、何のことはない。ただの係員だった。 黄土色の帽子に、黄土色の上着。そして白の短パンと、まるでサファリパークにでも現れそうな人間が、ただのテーマパークに現れた。しかも檻の中に、だ。 そいつは意気揚々とこちらに近づいてくるではないか。明らかに人命を助けるような顔をしていない。むしろ「さっき着いたところなの」と、大好きな彼氏に会うために三十分以上前から待ち合わせ場所にいた乙女のよう表情をしている。 そんな表情をしているだけであって、先に断っておくが、こいつはオヤジだ。言うなれば、乙女のときめきを持ち合わせた推定年齢四〇は軽く超えているオヤジが来たのだ。しかも意気揚々に。 扉が開いた時はこれでてっきり助かったと思ったが、まったく新しいタイプの地獄が始まっただけだった。     
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