高杉晋作登場

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 松蔭先生の遺体を棺桶に納めると、またもや晋作は皆の度肝を抜く事を言い出します。 「帰りはお留橋(乙女橋)を渡るぞ」  皆の空気が一瞬止まり、伊藤俊輔などは顔色を変え、震えながら晋作に食い下がりました。 「高杉さんなにをおっしゃってるんですか」  伊藤俊輔は何故、そこまでこの計画にビビったのか、それは「お留橋」とは将軍のみが通る事を許された特別な橋だからです。  勿論橋には幕府の警備が何人も居るはずですし、橋を渡ろうとすること自体犯罪です。 晋作は仲間達の空気もよまず、颯爽と歩き始め、皆もしょうがなくそれについて行きます。  勿論、橋に差し掛かると晋作一行は役人達に取り囲まれました。  その時、晋作が幕府警備兵に対し猛烈な勢いで怒鳴りつけました。 「我等は勅命により恩師の遺体を運んでいるのだ!我等の行く手を塞ぐことは勅命に反する逆賊行為ぞ!」  仲間達も震え上がるほどの凄みなある怒鳴り声だったそうで、役人はすごすごと道を空け、晋作は堂々とその真ん中を歩いて橋を渡ったと言います。  なんという大胆不敵、正に漫画の主人公です。  毛利邸に帰り着くと、沸き立つ仲間にひとことポツリと。 「将軍様の渡る橋を渡れたのだ、先生も浮かばれよう・・・」  場は静まりかえったそうです、晋作の行動は奇想天外なだけでは無く、敬愛する師匠松蔭のプライド、名誉回復を誰よりも考えての行動だったのです。  エレファントカシマシの歌で、昔の侍はプライドの為に死んじまうらしいぜ!って歌詞がありましたが、現代人には理解しがたいでしょうが、自らの誇りの為なら命など惜しまない、そんな社会構造、人格生成の時代なのです、先生を罪人として葬ることこそ、自分たちの名誉も傷つけられることだ、と考えていての行動だったのかもしれません。  晋作のこの行動により、松蔭は毛利家の一家臣として、神格化された英雄として後世に刻まれることになったのです。
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