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彼女にだって、愛する男性はいる。だが、もし彼が浮気をしてーーでは、その時に自分は気がおかしくなる位取り乱し、彼の為に死ぬことは出来るのか。
そう考えた時、彼女はどうしてもイエスとは思えなかった。
何故かーー?
「だって、今の私はあんな男より、バレエの方が大切なんだもの。特に、今回は……やっとジゼルの役を貰えたのよ。絶対絶対、舞台を成功させないと」
(でも、その為にはジゼルの燃える様に激しい恋心を理解する必要があるのに……)
深く思い悩みながら、音楽に合わせ、可憐にジゼルを舞う少女。その瞳には先程より深い苦悩の色がありありと宿っていた。
「ああ、やっと彼女からジゼルの座を勝ち取れたのに……」
泣き出しそうな表情で呟きながら、少女はライバルの少女のことを思い出す。舞台『ジゼル』のプリマが発表された時の表情を。
まるで前世からの因縁の敵でも見ているかの様な、憎悪と憤怒、それに激しい屈辱に燃えたあの表情ーーそれはまさに、少女が今追い求めている、狂乱した時のジゼルの表情そのものだった。
「ああ、あの時の彼女程の情熱が、私の恋心にもあれば良かったのに」
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