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俺は少しずつ遠ざかっていく女の背中に、小さく安堵の息を吐いた。が、直ぐにそれは新たな不安に塗り替えられることになる。
女が去って行った扉の向こうから、何かおかしな音がするのだ。
ガリ、ガリ、ガリ、ガリ。
何か、固い金属を引きずる様な音。それが、少しずつ此方に近づいて来ているのである。
ガリガリガリガリ。
一歩ずつ、少しずつ近づいてくる金属の音。それはやがて、この部屋の前まで来ると、一旦ピタリと停止する。
だが、次の瞬間ーー部屋の扉が開くと同時、俺は音の正体を嫌でも知ることとなった。
「うふ、うふ、うふふふふふふふふふふ」
俺の血に塗れたまま、不気味な笑顔を浮かべる女。彼女に手には細長い柄のついた金属製のハンマーが握られていたのである。
(さっきから聞こえていたのは、これを引きずる音だったのか……)
音の正体に俺は激しく戦慄すると、彼女から逃れようと椅子のまま必死に床を這う。しかし、全身傷だらけで瀕死の俺に追い付く等、彼女にとっては造作もないことで。
女は容易く、再度また俺に馬乗りになると、大きくハンマーを振りかぶった。
(ダメだ……殺される!!)
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