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必死に身を捩る俺。その時、俺は気が付いた。体ごと椅子に両手を拘束していたガムテープが切れていたことに。
恐らく、先程何度も俺を刺してきた時、誤ってあの女が俺の手ごと切ってしまったのだろう。
俺はそれに気付くと、両手を伸ばし、女の振るうハンマーに必死に掴みかかった。
一方、女は俺の抵抗等全く予期していなかったのか一瞬驚いた様な表情をし、動きを止める。
俺はその隙にハンマーを奪い取ると、全身に残されていた力を総動員し、何度もそれを女に叩きつけた。
ゴキッ、バキッ、グシャッ、グチャ!
骨が砕け、内臓が破裂する音が俺の耳を塞いでいく。
何時の間にか、女の上に乗り、何度も無心でハンマーを振るう俺。すると、俺の下で、俺をじっと見つめている女と目が合った。
彼女は先程と同じ様に、優しく微笑むと、ゆっくり唇を動かす。
「……ほら、ね? だから、言ったでしょう? 白い服に飛び散った赤い血は、何より綺麗で、よく似合うのよ」
告げると同時、その薔薇の様な唇から大量の血を吐き出す女。
俺は全身に彼女の血を浴びながら、我知らず、ゆっくりと微笑んだ。
「ああ、確かに……あんたの言った通りだよ。紅く染まったあんたは、なんて綺麗なんだろう……」
そう言って、女の体に再度ハンマーを振り下ろす俺。
彼女の美しい顔面がひしゃげ、歯や眼球、それに美しい桃色をした脳漿が宙を舞っていく。
女の美しい顔や肢体が少しずつ壊れていくのと同時、失われていく、俺の中の大切な何か。
嗚呼……現実や常識というのものは、積み上げていくのはなんと困難で……壊れ、墜ちて逝くのは、なんて簡単なのだろう……。
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