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行列の最後尾を歩く若者達が背負った大きな鏡台には目にも鮮やかな猩々緋の布が被せられ、歩く度にはらりはらりと揺れるのが、私達にとってはまた一層美しく感じられた。
「はぁ、綺麗だなぁ」
うっとりしながら、私達は行列を見送る。
と、不意に行列全体が足を止めた。
「あれ? どうしたんだろう?」
「何か落とし物でもしちゃったとか?」
そう話しながら私と親友が顔を見合わせていると、行列の一団が一斉に此方を振り返る。
その顔はーー。
「き、き、狐??!!」
そうーー先頭の宰領も、長持ち担ぎも、仲人婦人も、日用品を担いでいた若者達も――あの白無垢を身に纏った美しい花嫁でさえも。
皆、皆、真っ白い顔をした狐だったのだ。
「「きゃあああああ!!!!!!」」
思わず抱き合って悲鳴を上げる私達。
すると、先程と同じ様に強い風が再度吹き付けるや、耳元で鈴の音が鳴り響く。
シャンッ。シャンシャンッ。
私達は互いに強く抱き合うと、再びぎゅぅっと眸を閉じた。
一対どれ程の刻をそうしていただろう。
ポツンッ。
私の額に落ちる冷たい水滴。その感覚に私はゆっくりと目を開ける。
すると、目の前には、私と同じ様に強く目を閉じたまま震えている親友の姿があった。
辺りを見回しても、もうあの花嫁行列の姿はない。私はそのことに安堵すると、ゆっくり親友の肩に手を掛けた。
「ね、目を開けて? もう大丈夫みたいだよ」
「ほんと……?」
私の言葉におずおずと目を開ける親友。
その瞬間、空の真ん中では眩しい位に太陽が輝いているというのに、不意に激しい雨が降り注いできた。
「え、いきなり?!」
私と親友は、先程とは別の意味で悲鳴を上げるとそれぞれに家に向かい駆け出していく。
と、親友が不意に立ち止まると、はっとした表情で私に話しかけてきた。
「ねぇ? 今思い出したんだけどさ。晴れてる日に降る雨のことを、狐の嫁入りっていうんだって」
「えっ?」
思わず声を上げる私。
シャンッ。
そんな私の耳元で再度、あの鈴の音が響き渡った。
振り返るとーー遠くの田んぼの畦道に、あの華麗な狐の嫁入り行列が一瞬浮かびあがって見える。
それは、やがて雨に溶け込む様に薄くなると、晴れた初夏の田園風景の中にゆっくりと消えていった。
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