虚ろなうろ

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 私はそこまで考えると、医者や看護師等一般常識に関わる部分の記憶は失われていないことに気付く。  成る程、消えてしまったのは私の今までの体験や人生に関わる記憶なのかもな。  私がぼんやりそんなことを考えていると、女に続き、年老いた男の方も私の手を強く両手で握ってきた。寧ろ、握る力が強すぎて少し痛い位だ。  そうして、二人は暫くそうしていると、やがて私を抱き締め、二人で声を上げて泣き出した。  いい大人なのに、子供みたい。  感極まった様に、わんわんと大声を上げて泣く二人にかなり驚き、たじろぐ私。でも、この二人が泣いている顔を見ると、まるで心臓が締め付けられる様に苦しくなるのは何故だろう。  私は、自分の中に芽生えた感情に戸惑いながらも、そっと二人の背中に手を回してみる。  すると、二人は一瞬驚いた様な表情を浮かべるが、直ぐに嬉しそうに破顔すると、先程より一層強い力で私を抱き締め返してきた。  そんな私達を見つめながら、自らも瞳に涙を滲ませた女医が穏やかに、ゆっくりと話しかけてくる。 「お父さん、お母さん、良かったですね。お嬢さんの意識が戻られて」  
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