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「楽しかったわ」
「お腹いっぱい」
「また明日ね」
パタンパタンとそれぞれのドアが閉まる。
「ただいま、お母ちゃん」
チンチンと軽く二つ。
「今夜は大家さんトコでみんなで合格祝いし
てくれたんや」
ここは大阪と奈良の間の田舎町。この1Kアパートの7人が近くの大学の女子学生で高校生は私だけ。
「まだメールを返さんとあかん友達もあるん
やけど」
とりあえずスマホをベッドへ置いた。でもすぐに開けて着信確認。
「ないな・・・ない、ない、
期待したらアカン・・・」
仏さん茶碗に赤飯を盛る。
「朝から大家さん、炊いてくれたんや」
またチンチン。
「せやせや11時回ってるからチンチン
悪いな、近所迷惑は、お母ちゃん
嫌いやったもんな」
お母ちゃんが仏さんになって二年、私は春に東大生になる。私が勉強出来るの自慢やったから今日、ここにおったら、得意のピアノ、弾いてくれた。
「お母ちゃんが生きてたら、
ここにはいてないな、(いないはず)
ハハ・・ハ・・・」
で、なんか凹んだ。
私の家はそこら辺にある普通の三人家族やった。仲もよかったと思う。三人だけの着メロは『乙女の祈り』。お母ちゃんがよう(よく)弾いてたから。でも・・・
お母ちゃんが病気で死んですぐ、お父ちゃんがケッタイな(奇妙な)若い女を連れてきた。毎日何にもせんとテレビだけ見て晩になったらお父ちゃんと呑みに行く。それだけやったら我慢したけど、ある日帰ってきたら、お母ちゃんのピアノが無くなってた。遊ぶ金欲しさに売ったて、女が言うた。慌てて芦屋の友達の葵ちゃんのお母さんに電話したら、湾岸高速ぶっ飛ばして来てくれた上に、その女までぶっ飛ばしてくれた。お母ちゃんの仏さんと一緒に葵ちゃんの家に行くまでの車の助手席でおばちゃんはずっと泣いてた。お母ちゃんの幼なじみやからもあるけどおばちゃんも子供の頃におんなじことがあったとお母ちゃんに聞いたことがある。
「今度の大家さんもエエ人やで。
ピアノ置けるようにリフォーム
してくれたんで、お母ちゃん」
葵ちゃんのお父さんが弁護士さんに頼んでくれてピアノも取り戻せて預かってくれてた。
「お母ちゃんの『命代』で大学もいける」
もうイッペン(1度)手を合わせた。
お母ちゃんは死ぬ前に生命保険のお金で私が大学へいける段取りを葵ちゃんのお母さんに頼んでた。このアパートも高校のそばで大家さんがエエ人やと、世話してくれたのもおばちゃん。
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