ジョナサンの証言5

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総帥の援助はあまり期待は出来ん。総帥の求めるのは永久機関だ。総帥の、ゼニスバーグ様の求めるものを追求する必要が」 その時、馬車が闇に沈んだ。馬車が闇を置き去りに通り過ぎ、研究者達が悲鳴を上げた。 オッペンハイマーは、疾風魔法で全身を切り刻まれ、無残な死体を晒していた。 馬車が急停止し、各々が馬車を飛び出し、下手人を探した。 まばらに行き交う通行人しか見えず、子爵暗殺犯の姿は闇に消えた。 その通行人の中にいた、若い勇者の末裔の存在は、完全に忘却された。 馬車とすれ違っただけの男に、これだけのことがなし得るとは、誰の想像をも超えたことだった。 ふう。座標設定型の魔法は得意なんだ。ちゃんとやれてよかった。 唯一の懸念は疾風魔法だった。下手な両断は出来なかったが、小さなナイフで切り刻むくらいは出来た。結果は上々。馬駆ってきて良かったよ。 これでいいんだろ?ショーグン。 あんたは最初から通じてなかったんだ。 彼女は人の形をした昆虫に過ぎなくて、それで一人で絶望して、それでも拘らざるを得なかった。  あんたの気持ち、少しは晴れたかな?  視界の先を、小さなものが横切った。  それは、番いの蝗だった。 ジョナサンは空を見上げた。秋の空だった。 そして、おさびし村に、スライムを抱えた幼児がいた。 「おい。何だよ突然座り込みやがって」 スライムが、自身を抱えた幼女を見た。 「ぎゅー、タプタプ。ぷよぷよ。とう」 「ぎゃああああああ!いきなり人をむしるな!おい、どこ見てんだ?ユノ」  幼女はじっと西の空を見つめていた。  そのはるか先に、同じように空を見つめる者がいて、その視線は、確かに交差していた。 それは偶然かも知れないが、何年か先、同じように、二人の視線は重なり合うことになり、それが、星の命運を左右する、激烈な闘いの舞台になることなど、誰の想像をも超えたものだった。 今は、どこまでも平和な空を、幼女は見つめている。その先に何が待つか解らぬまま、秋の空は暮れていくのだった。 了
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