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予鈴少女と待ち合わせ
キーンコーンカーンコーン
チャイムが聞こえる。
あたしは走る。
ガタガタ、ガタガタ。
背中でランドセルが音をたてる。
正門は目の前。
カーンコーンキーンコーン
「もっと早く来なさい!」
どうにかチャイムが鳴りやむ前に滑り込んだあたしの背中を、門の横に立っていた藤田先生の、太くて低い声が追いかけてきた。
あたしは心の中であっかんべえをする。
クラスのみんなは、藤田先生が怖いって言う。そんなことない、ってあたしは思う。
毎日、毎日、こうやっておんなじ台詞を聞いてたら、慣れちゃうのに。みんな、それを知らないんだ。
大急ぎで玄関に入る。下駄箱からぺちゃんこになった上履きを落として、履いていた靴を放り込む。ギュッと上履きのかかとを踏んじゃうけど、気にしない。
朝の会が始まるまで、五分もない。ちゃんと教室にいないと、三沢先生に怒られちゃう。
三沢先生は、三沢優生先生っていう。学校の他の先生とちょっと違って、なんだかおっとりしていて、優しくて、優しい声で、どうして今日は遅れたの、って聞いてくる。早く来いって怒鳴るだけの藤田先生とは全然違う。
でも、あたしはそれが嫌だ。
全然怒ってない声で、理由を聞かれるのが嫌だ。
だって、理由なんてないもん。
教室まで走ろう、と誰もいない廊下が目の前に広がったとき、
「おはよう」
声がした。
桐葉さんだ。
水色のランドセル。ちゃんと上履きも履いている。あたしと違って、適当じゃない。
今日もいるんだ。
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