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「遅れるよ、急がなきゃ」
あたしは走り出す。
「あ、早い!」
パタパタと後ろから桐葉さんの音がする。
こういうところ、意外だ。
毎日のことだからもう慣れたけど、桐葉さんは、廊下は走っちゃいけないんだよ、って言いそうな感じなのに。もっと言えば、遅刻なんてしなさそうな感じなのに。
なのに、こうして毎日、あたしの後ろを走っている。
「どして?待ってなくていいのに」
「うーん、木野さんが来るかなあって思ったから?」
急ぎながら、走りながら、あたしはできるだけ不機嫌ぽく言ったのに、桐葉さんは相変わらずのんびりと返してくる。
「桐葉さんさ、別に、あたしのこと待たなくていいよ。あたしのこと待って遅刻したら、意味ないじゃん。あたしよりは、早く来てるんでしょ」
階段を二段飛ばし。
「ん、でも、木野さん、来なかったことないでしょ?」
なんでもないような声。
教室の扉を開けた。
キーンコーンカーンコーン
八時三十分だ。
ギリギリセーフ。
今日も変わらず、あたしと桐葉さんは教室に滑り込んだ。
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