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一
「ちっとも、分からねえ……」
周庵は、ぼんやりと眺めていた本を放り投げた。
若い頃にはひたすら剣術に打ち込んで、学問などろくすっぽしたことがなかったし、その後も、学問などとは無縁の、とてもまっとうとは言いかねる生き方を重ねてきた。
無論、差し障りが無い程度の読み書きくらいは一通り習ったのだから、読めないということはないのだが、なにしろ全て漢文である。こんなものは、とにかく眺めているだけで頭が痛くなってくるのだ。
およそ、人には向き不向きというものがある。
そう思いながらも、つい手荒に扱ってしまったことを後悔しながら、本を拾い上げたその時――
すぱん、と。
最前からその気配は察していたから驚きはしなかったが、何の訪いもなく長屋の油障子が、勢いよく引き開けられて周庵は、ゆっくりと首を回した。
頭も体も顔の造作も、何から何までもが丸で構成されているかのように丸々っちい若者が、口だけは丸ではなく、への字に曲げて立っていた。
「……どうしなすった?」
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