母という名の逝き者は

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そして最後のページの日付は私が家を出た日だった。 【あの子が家を出て行った。全てはわたしが招いたことだろう。悔やんでも悔やみきれない。だからといってあの子のことを見捨てたわけではない。わたしが傍にいない方があの子は幸せになれるのかも知れない。だから今はぐっと堪えて時が過ぎるのを待とう。いつか……いつか本当のわたしをあの子に見せたい。その日が来るまでわたしはいつまでもあの子が帰って来るのを待っていよう】 最後は今までとは比較にならないほど沢山の言葉が綴られていた。 (これが……母さんの本当の気持ち……) 最後の言葉を飲み込む頃には涙を零していた。 母の葬儀中は一滴だって零さなかった涙を。 今更こんな形で母の本音を知るだなんて──…… 何もかも遅かった、そう思うと何か大きな過ちを犯したような気がして堪らなかった。 だけどおそらく母が生きているうちはこの日記を私に見ることはないだろう。 母が生きている間、お互いに誤解したまま歩み寄ることはなかったのだろうと思うと辛かった。 しかしいくつか時を経て、死が間近に迫った頃、何かのきっかけで母と再会していたら今までの関係とは違ったものが築けたかも知れない。 勿論、何もかも私の憶測でしかないけれど。 「……本当、何していたんだろうね、私たち」 日記という形で本当の母を知った私は今までとは違う気持ちで母という存在を心の中に刻むことが出来たのだった──。 母という名の逝き者は(終)
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